甲府地方気象台は甲府駅から西に10分ほど歩いた場所にあり、気象台東という大きな交差点を過ぎると間もなく見えてきます。統計開始は1894年と大変古いですが住所は西青沼、伊勢町、飯田(現在)と変遷してきました。甲府空襲で伊勢町の庁舎が全焼したため、発祥の西青沼にほど近い飯田に戻ってきた経緯があります。
露場の敷地は広く、観測機器を取り囲む柵の外側に季節観測で用いる桜やアジサイの標本木が植えられています。桜の開花と初氷の観測はメディアの関心が高く各社記者が訪れますが、それ以外は静かなものです。甲府地方気象台の観測で特別に注目されているのが富士山の初冠雪です。かつて富士山初冠雪の観測は河口湖や三島の測候所でも行われていましたが、測候所の無人化にともない現在は甲府地方気象台に集約されています。建物の窓から富士山はよく見えるということですが、甲府と富士山の間には御坂山地があり積雲が湧きやすいため、実際の降雪より観測が数日遅れることが珍しくありません。富士山の初冠雪から通常1か月ほど季節が進むと甲斐駒ヶ岳でも初冠雪も観測されます。甲斐駒ヶ岳の方角には窓がないため、観測の度に外に出る必要があり苦労があるようです。
甲府は夏の猛暑が有名です。内陸の盆地奥部という立地ゆえに海風が入りにくく、夕方まで昇温が続くことが暑さの一因となっています。最も気温が高くなりやすいのは北風です。これは甲府市街の北側に高い山があるためで、フェーン現象の効果が40℃を超える最後の一押しとして必要です。
一方、冬場は八ヶ岳おろしの北西風が吹き荒れて最大瞬間風速が20m/sを超えることがあります。盆地は風が弱いと考えていると正しい予報を出すことができません。
甲府地方気象台は甲府市中心部を流れる相川と荒川に挟まれた地域にあります。おおまかにJRの線路の北側が相川扇状地で、甲府地方気象台は扇状地から外れています。このことが影響しているかは不明ですが、夜間、JR線の南側は北側に比べて山から涼しい風が吹き下ろしにくく、気温が下がりにくいように感じます。かつて武田信玄の館があった武田神社は扇状地の頂点に位置し、扇状地上に家臣団の武家屋敷を作らせました。「人は石垣人は城」とは相川扇状地全体を城に見立てた言葉のようにも感じます。